東京高等裁判所 昭和62年(ネ)3725号 判決 1990年1月31日
控訴人(第一審本訴原告、反訴被告)
福田敏夫
訴訟代理人弁護士
横田武
同
宮本裕将
同
内田頼武
同
岩野正
被控訴人(第一審本訴被告)
朝銀新潟信用組合
代表者代表理事
徐一根
被控訴人(第一審本訴被告、反訴原告)
日本勤労者住宅協会
代表者理事長
関口洋
被控訴人両名訴訟代理人弁護士
坂東克彦
同
平田亮
昭和六二年(ネ)第三七二五号事件参加人(以下、単に「参加人」という。)
樋口久米藏
訴訟代理人弁護士
足立定夫
同
味岡申宰
同
高橋勝
昭和六三年(ネ)第六四九号事件参加人(以下、単に「参加人」という。)
川澄好輝
訴訟代理人弁護士
布留川輝夫
主文
一 控訴人の本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。
二 参加人樋口久米藏の請求をいずれも棄却する。
三 参加人川澄好輝の請求をいずれも棄却する。
四 被控訴人日本勤労者住宅協会の控訴人及び参加人川澄好輝に対する各反訴請求に基づき、原判決主文第二、第三項を次のとおり変更する。
1 控訴人は、被控訴人日本勤労者住宅協会に対し、同被控訴人が、別紙物件目録一、二記載の各土地についてされた新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号条件付所有権移転仮登記(同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号移転の附記登記)に基づく所有権移転の本登記手続をすることを承諾せよ。
2 参加人川澄好輝は、被控訴人日本勤労者住宅協会に対し、同被控訴人が、別紙物件目録一の18及び同二の1記載の各土地についてされた新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号条件付所有権移転仮登記(同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号移転の附記登記)に基づく所有権移転の本登記手続をすることを承諾せよ。
五 控訴費用(反訴に関する費用を含む)は控訴人の、参加人樋口久米藏の参加によって生じた訴訟費用は同参加人の、参加人川澄好輝の参加によって生じた訴訟費用(同参加人に対する反訴に関する費用を含む)は同参加人の各負担とする。
事実
第一 当事者の申立て
一 控訴人
(本訴請求について)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人朝銀新潟信用組合は、控訴人に対し、別紙物件目録一、二記載の各土地につき、新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八五号根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
(本訴新請求について)
被控訴人日本勤労者住宅協会は、控訴人に対し、別紙物件目録記載一、二の各土地につき、新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号条件付所有権移転仮登記(同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号移転の附記登記)の抹消登記手続をせよ。
(反訴主位的新請求について)
被控訴人日本勤労者住宅協会の請求を棄却する。
(反訴予備的請求について)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人日本勤労者住宅協会の請求を棄却する。
(訴訟費用について)
訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、第一、二審とも被控訴人両名の負担とする。
(参加人樋口久米藏の請求について)
1 同参加人の請求を棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は同参加人の負担とする。
(参加人川澄好輝の請求について)
同参加人の請求を認諾する。
二 被控訴人両名
(本訴請求について)
本件控訴を棄却する。
(本訴新請求について)
控訴人の請求を棄却する。
(反訴主位的新請求について)
主文第四項1と同旨
(反訴予備的請求について)
本件控訴を棄却する。
(訴訟費用について)
控訴費用及び当審における反訴新請求に要した訴訟費用は、いずれも控訴人の負担とする。
(参加人川澄好輝に対する反訴新請求について)
主文第四項2と同旨
(参加人樋口久米藏の請求について)
1 同参加人の被控訴人日本勤労者住宅協会に対する請求を棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は同参加人の負担とする。
(参加人川澄好輝の請求について)
1 同参加人の被控訴人両名に対する各請求をいずれも棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は同参加人の負担とする。
三 参加人樋口久米藏
(参加人樋口久米藏の参加請求について)
1 参加人樋口久米藏と控訴人、被控訴人日本勤労者住宅協会、参加人川澄好輝との間において、参加人樋口久米藏が別紙物件目録一記載の各土地につき所有権を有することを確認する。
2 控訴人は、参加人樋口久米藏に対し、別紙物件目録一記載の各土地につき、新潟地方法務局昭和四三年一二月五日受付第九八七一号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
3 参加人川澄好輝は、参加人樋口久米藏に対し、別紙物件目録一の18記載の土地につき、新潟地方法務局昭和六一年六月五日受付第二〇三四二号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
4 控訴人は、参加人樋口久米藏に対し、別紙物件目録一記載の各土地につき、新潟地方法務局昭和四二年七月二七日受付第五〇八五号の所有権移転登記及び同法務局昭和四三年七月二日受付第四七一八号の所有権移転登記の各回復登記手続をせよ。
5 参加により生じた訴訟費用は、控訴人、被控訴人日本勤労者住宅協会及び参加人川澄好輝の各負担とする。
(参加人川澄好輝の請求について)
1 同参加人の参加人樋口久米藏に対する請求を棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は、参加人川澄好輝の負担とする。
四 参加人川澄好輝
(参加人川澄好輝と参加請求について)
1 参加人川澄好輝と控訴人、被控訴人両名との間において、参加人川澄好輝が別紙物件目録一の18及び同目録二の1記載の各土地につき所有権を有することを参加人川澄好輝と同樋口久米藏との間において、参加人川澄好輝が別紙物件目録一の18記載の土地につき所有権を有することをそれぞれ確認する。
2 被控訴人朝銀新潟信用組合は、参加人川澄好輝に対し、別紙物件目録一の18及び同目録二の1記載の各土地につき、新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八五号の根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。
3 被控訴人日本勤労者住宅協会は、参加人川澄好輝に対し、別紙物件目録一の18及び同目録二の1記載の各土地につき、新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号の条件付所有権移転仮登記(同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号移転の附記登記)の抹消登記手続をせよ。
4 参加により生じた訴訟費用は、控訴人、被控訴人両名、参加人樋口久米藏の各負担とする。
(被控訴人日本勤労者住宅協会の反訴新請求について)
同被控訴人の参加人川澄好輝に対する請求を棄却する。
(参加人樋口久米藏の請求について)
1 同参加人の参加人川澄好輝に対する請求を棄却する。
2 参加により生じた訴訟費用は、参加人樋口久米藏の負担とする。
第二 当事者の主張
一 控訴人の被控訴人両名に対する本訴請求(当審における新請求を含む、以下単に「本訴請求」という。)
1 請求の原因
(一) 控訴人は、訴外樋口イカの代理人である樋口藤作から、昭和三四年七月二三日、イカ所有の(1)新潟県西蒲原郡内野町大字五十嵐浜字川下五八二三番二八畑六反六畝二〇歩及び(2)同所同番二七畑一反六畝一二歩を、農地法五条所定の許可を条件として代金一二二万五四七〇円で買い受けた。
(二) 別紙物件目録一及び二記載の各土地(以下「本件土地一、二」という。)は、前項(1)、(2)の土地が昭和三八年に換地処分により換地された土地の一部である。
(三) 訴外イカは、昭和三九年一月一二日に死亡し、藤作がその遺産の全部を相続し、同四一年九月七日藤作は本件土地一、二につきその旨の所有権移転登記を経由した。
(四) 控訴人は、本件土地二につき昭和四三年三月七日、また、本件土地一につき同年八月二九日、それぞれ新潟県知事による農地法五条所定の許可を得て右各土地の所有権を取得し、本件土地二については同年三月二六日、本件土地一については同年一二月五日各受付をもって所有権移転登記を経由した。
(五) 本件土地一、二には、昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号をもってされた訴外高用朝を権利者とする条件付所有権移転仮登記、同五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号をもってされた被控訴人日本勤労者住宅協会(以下「勤住協」という。)を権利者とする右仮登記の移転の附記登記及び昭和四一年一〇月六日受付第六一八五号をもってされた被控訴人朝銀新潟信用組合(昭和六三年一〇月一日従前の「新潟朝鮮信用組合」の名称を変更した。以下「組合」という。)を権利者とする根抵当権設定登記が存在する。
(六) よって、控訴人は、本件土地一、二の所有権に基づいて、被控訴人組合に対しては前記根抵当権設定登記の抹消登記手続を、被控訴人勤住協に対しては前記仮登記の抹消登記手続を求める。
2 請求の原因に対する答弁
(一) 請求の原因事実(一)のうち、イカが(1)、(2)の土地を所有していたことは認めるが、その余は否認する。
(二) 同(二)、(三)は認める。
(三) 同(四)のうち、本件土地一、二につきそれぞれ県知事の許可及び所有権移転登記がその主張のとおりにされたことは認めるが、その余は争う。
(四) 同(五)は認める。
3 抗弁
(一) 高用朝は、昭和四一年九月一日、保佐人樋口秀次の同意を得た藤作との間で、第一次的には本件土地一、二を売買の目的とし(但し、売主藤作において本件土地一と訴外吉田ヨセ所有の別紙物件目録三記載の土地(以下「本件土地三」という。)とを交換して本件土地三の所有権を取得しその所有権移転登記を受けたうえ、さらに高用朝又はその指図する者への所有県移転登記を経由した場合には、第二次的に本件土地二と本件土地三とが売買の目的となる。)、代金を二四八六万九〇〇〇円、農地法所定の許可の申請は高用朝の都合により同人又はその指図する者に対して譲渡したものとすることに藤作も協力するとの農地法五条所定の許可を条件とする約定で本件土地一、二を買い受ける旨の売買契約を締結し、本件土地一、二につきそれぞれ控訴人主張の所有権移転仮登記を経由した。
(二) 次いで、財団法人労働者住宅協会(以下「労住協」という。)は、昭和四一年九月一五日、新潟県住宅生活協同組合(以下「福対協」という。)をその代理人として、高用朝から本件土地一、二についての買主の地位を譲り受けたところ(藤作は右秀次の同意を得て右譲渡を承諾した。)、日本勤労者住宅協会法(昭四一・七・二五法一三三号)により被控訴人勤住協が設立され、昭和四二年三月二九日その成立と同時に労住協の有する権利義務はすべて被控訴人勤住協に承継された。
(三) そして、労住協は、本件土地二につき藤作から譲渡を受けたとして昭和四二年三月九日新潟県知事による農地法五条所定の許可を得た。
また、本件土地一、二は、昭和四二頃から周辺農地が順次宅地化され、同四五年一一月一六日新潟県告示(第一三四七号)により右土地を含む周辺土地が市街化区域に編入される等の経緯を経て、宅地化が完成し、昭和五三年八月五日受付をもって本件土地一、二につき畑から雑種地への地目変更の登記が経由された。
以上により、被控訴人勤住協は、本件土地二については昭和四二年三月九日には、両土地につきおそくとも昭和五三年八月五日までにはその所有権を取得した。
次いで、被控訴人勤住協は、本件土地一、二につき、控訴人主張のとおり高用朝の前記仮登記につき昭和五六年一〇月二七日受付をもって、藤作との間の売買契約上の地位の譲渡を原因とする移転の附記登記を経由した。
(四) 次に、高用朝は、(一)記載の売買契約上の代金の支払に充てるべく被控訴人組合から金銭の貸付を受けたが、藤作は保佐人である秀次の同意を得て物上保証人として、被控訴人組合との間で、昭和四一年九月二八日、本件土地一、二につき極度額を二〇〇〇万円とする根抵当権設定契約を締結し、控訴人主張の根抵当権設定登記を経由した。
4 抗弁に対する答弁
(一) 抗弁事実(一)のうち、本件土地一、二が藤作の所有であったことは認めるが、その余の事実は否認する。
仮に、藤作と高用朝との間になんらかの契約が締結されたとしても、右契約は本件土地二及び三について締結されたものであり、本件土地一は契約の対象とはならなかった。
本件土地一について仮登記がされたのは、本件土地二、三について売買契約が締結された当時本件土地三は藤作の所有ではなく訴外吉田ヨセの所有であったところから藤作において昭和四一年一一月一日までに本件土地三の所有権を取得し所有権移転登記を受けたうえ買主高用朝の指図に応ずることとし、それまでの間の担保的目的で本件土地一、二について仮登記を経由しておくことにしたためである。
また、秀次は、藤作からその実印を取り上げたうえ、藤作に無断で高用朝との間で売買契約を締結したものである。しかも、右契約を阻止しようとした藤作をして左手小指を第二関節から切断せしめてまでも右契約を維持しようとしたのである。
(二) 同(二)のうち、労住協と被控訴人勤住協との間に同被控訴人主張の承継関係があることは認めるが、福対協に被控訴人勤住協の本件土地一、二取得のための代理権が存在したことは否認する、その余は不知。
福対協と労住協ないし被控訴人勤住協との間には本件土地一、二の取得について業務委託の関係は存在しなかった。したがって、福対協が高用朝との間で締結した売買契約の効力は、あくまで高用朝と福対協との間に生ずるものであって、労住協ないし被控訴人勤住協について生ずるものではない。
(三) 同(三)のうち被控訴人勤住協が本件土地一、二の所有権を取得したとの事実は争うが、その余は認める。
(四) 同(四)は否認する。被控訴人組合主張の根抵当権の設定は、秀次が藤作に無断でしたものであって無効である。右根抵当権の設定も秀次が藤作から実印を取り上げ、藤作に無断でしたものである。
5 再抗弁
(一) 高の国籍は、昭和四一年九月同人と藤作との売買契約の当時、朝鮮民主主義人民共和国(いわゆる北朝鮮)に属していたが、その当時北朝鮮に国籍を有する者については、外国人の財産取得に関する政令(昭和二四・三・一五政令五一号)により主務大臣(農林大臣)の認可を受けなければ財産の取得は効力を生じないものとされていたから、右認可を得ない高用朝は本件土地一、二を取得することができなかったものであり、右認可を受けないまま買主の地位を労住協に譲渡したからといって、そのような譲渡行為は脱法行為として無効であるから、労住協ひいて被控訴人勤住協は本件土地の所有権を取得していないというべきである。
なお、被控訴人両名援用の法務省民事局長通達は、「朝鮮」と国籍を表示している者を大韓民国の国籍者とみなすのではなく、朝鮮国籍者が大韓民国の国籍者とも朝鮮民主主義人民共和国の国籍者とも判明しない場合の已むをえない措置として、大韓民国の国籍者としての取扱いを認めたにすぎないものであり、高用朝のように国籍が北朝鮮であることをみずから明らかにしている者はこれに含まれない、と解すべきである。
(二) 前述のとおり、藤作と高用朝との間の売買契約は、本件土地二と三について締結されたものであって、第一次的に本件土地一、二を、第二次的に本件土地二、三を売買の目的とするという契約関係にあったものではないが、当時本件土地三は訴外吉田ヨセの所有であったところから、藤作においてこれを自分の所有として所有権移転登記手続を完了したうえ高用朝の指図に応ずることとすると共に、同土地について所有権移転登記手続が完了されるまでの間、右手続のされることを担保する目的で高に対し本件土地一、二につき所有権移転の仮登記をすることを藤作において承諾し、各登記手続が経由されたのである。
したがって、本件土地一、二についてされた高名義の右所有権移転の仮登記は、藤作が本件土地三について訴外吉田ヨセから所有権移転登記を受けたときは、担保目的を達成したものとして抹消されるべきものであり、したがって、独立に仮登記上の権利を譲渡することはできないものであるところ、藤作は、昭和四二年四月二一日、本件土地三と藤作所有の本件土地一との交換契約を締結して右土地の所有権を取得すると共に、同日受付をもって交換を原因とする所有権移転登記を完了したから、本件土地一、二についてされた高用朝の所有権移転の仮登記はいずれもその目的を到達し、高はその抹消義務を負担したものである。したがってまた、被控訴人勤住協において仮登記上の権利の譲受け附記登記を経由しても、その効力を第三者に主張できるものではない。
(三) 高用朝は、藤作から本件土地一、二を買受けたが、朝鮮民主主義人民共和国に国籍を置くところからその所有権を取得するには主務大臣の認可を必要とすることを知り、自己名義による取得をあきらめ、自己に代って買主の名義を貸与してもらえる者を物色した結果、福対協との間で交渉がまとまり昭和四一年九月一五日に形式上福対協との間で売買契約を締結したのであり、高と福対協間に締結された売買契約は、高に対する主務大臣の認可を無用とするための通謀虚偽表示として行われたものであり、無効である。
(四)(1) 藤作が高用朝との間の前記売買契約締結に応じたのは、当時、藤作の家族や親戚が本件土地一、二を処分して債務整理をするよう藤作に強く迫り、実弟の樋口秀次らが藤作に激しい暴行、脅迫を加えたうえ、強要して藤作に自らその小指を切断させ、もし藤作が右売買に応じなければ、さらに藤作の身体に危害を加える気勢を示して同人を脅し畏怖させたためである。
したがって、藤作は、右契約における売渡しの意思表示につき民法九六条一項の取消権を有している。
(2) 控訴人は、本訴請求の原因(一)ないし(三)記載のとおり、昭和三四年七月二三日樋口イカから本件土地一、二を買い受けているものであり、同人の相続人である藤作に対し、右各土地につき、すでに経由されている控訴人名義への所有権移転登記の保全を求める権利など右売買契約上の請求権を有している。
(3) 藤作は、昭和五三年一二月三一日死亡し、別紙相続関係図の◎印を付した相続人九名は、右(1)の取消権及び右(2)の売買契約上の義務をそれぞれ相続により承継した。
(4) 本件土地一、二の買主である控訴人は、売主たる藤作の承継人である右相続人九名に代位して、高用朝から前記買主たる地位を承継した被控訴人勤住協に対し、昭和六〇年三月一八日の当審第一三回口頭弁論期日において、前記売買契約における藤作の高用朝への売渡しの意思表示を取り消す旨の意思表示をした。
6 再抗弁に対する答弁
(一) 再抗弁事実(一)のうち、高用朝が朝鮮民主主義人民共和国の国籍を有することは認めるが、その余は争う。本件売買当時施行されていた外国人の財産取得に関する政令二三条の二は、「この政令の規定は、主務大臣の指定する外国人については適用しない。」と定めて適用除外規定を設けているところ、外国人の財産取得に関する政令に基づく大蔵省、通産省告示第一号(昭和二七・八・二一大蔵省・通商産業省告示一号)別表は、指定外国人のうちに「大韓民国」の国籍を有する者をこれに含めている。そして、法務省民事局長回答(昭和三〇・一一・一四民事甲二四一三号)によれば、朝鮮の国籍を有する者は、前記告示別表に掲記の大韓民国の国籍を有する者として取り扱って差支えない、とされており、在日朝鮮人は、その国籍が朝鮮民主主義人民共和国と韓国とのいずれにあるとを問わず、農地を取得できる資格を持っていると解すべきである。
(二) 同(二)のうち、吉田ヨセ所有の本件土地三と藤作所有の本件土地一との交換についての主張事実は認める。その余は争う。
高用朝は、藤作から、第一次的には本件土地一、二を買い受けたものであり、同土地についてした仮登記は、本来の意味での順位保全のための仮登記である。かかる仮登記についての順位保全の効力が失われる事情は存しない。
(三) 同(三)の主張は否認する。
高用朝は、本件土地一、二を在日朝鮮人の子女の教育施設たる学校建設の敷地とするため取得しようとしたが、附近住民の反対運動の生じたことから別の場所に用地を確保することに変更し、本件土地一、二は友好団体である労住協の代理人たる福対協に買い受けてもらったのである。
(四) 同(四)(1)ないし(4)のうち、藤作が昭和五三年一二月三一日死亡したこと、同人の相続人が控訴人主張の九名であること、控訴人がその主張のとおりの取消しの意思表示をしたことは認めるが、その余はすべて否認する。
二 被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴請求(主位的)
1 請求の原因
(一) 本訴抗弁(一)ないし(三)のとおり。
(二) 藤作は昭和五三年一二月三一死亡し、別紙相続関係図の◎印を付した訴外佐藤さち子外八名が藤作の相続人としてその地位を承継したので、被控訴人勤住協は、本件土地一、二につき、右訴外人ら九名に対し、本訴請求の原因(五)記載の各仮登記に基づく本登記手続を求める訴えを新潟地方裁判所に提起し昭和五七年二月一一日同被控訴人勝訴の判決が確定した。
(三) ところが、本件土地一、二については、控訴人のため本訴請求の原因(四)記載のとおり各所有権移転登記が経由されているところ、右各登記はいずれもその順位において被控訴人勤住協の仮登記に後れるものであり、同被控訴人に対抗できないものである。
(四) よって、被控訴人勤住協は、控訴人に対し、同被控訴人が本件土地一、二につき前記各仮登記に基づく本登記手続をすることの承諾を求める。
2 請求の原因に対する答弁
(一) 請求の原因事実(一)については、本訴抗弁に対する答弁(一)ないし(三)のとおり。
(二) 同(二)は認める。
(三) 同(三)のうち、控訴人の所有権移転登記が被控訴人勤住協の仮登記に後れることは認めるが、その効果は争う。
3 抗弁
(一) 本訴再抗弁(一)ないし(四)のとおり。
(二) 被控訴人勤住協ないし高用朝は、本件土地三が前記の経過により昭和四二年四月二一日藤作の所有名義となったことを承知しているにもかかわらず、藤作と高用朝の売買契約における特約に従い、本件土地三を取得する指図をなさず、かえって同土地について昭和五五年一月三〇日付を以て藤作の相続人の一人定命也に相続登記を許し、本件土地一について藤作の相続人らと通謀して仮登記に基づく本登記請求の確定判決を取得したうえ、同土地についての本登記承諾請求に及んだものであって、右は、被控訴人らと藤作の相続人らが通謀のうえ控訴人の本件土地一についての所有権取得を妨害しようとする意図に出たものであり、背信的悪意者の請求であるから、控訴人は本件土地一については本登記の承諾義務を負わない。
4 抗弁に対する答弁
(一) 抗弁(一)については本訴再抗弁に対する答弁(一)ないし(四)のとおり。
(二) 同(二)は争う。
三 同反訴請求(予備的)
1 請求の原因
(一) 本訴抗弁(一)、(二)及び(三)第一段のとおり(但し、本件土地二に関してのみ、以下反訴請求(予備的)においては、本訴関係の記載引用部分につき同じ。)
(二) 被控訴人勤住協は、本件土地二につき昭和四二年三月三〇日受付第二〇五三号をもって同年同月九日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
(三) これより先、控訴人は、本件土地二につき昭和四一年一〇月一八日付で新潟地方裁判所より藤作を債務者とする処分禁止仮処分命令を得て同四一年一〇月二一日受付をもってその旨の登記を経由した。そして、控訴人は、その本案訴訟で、藤作を被告とする新潟地方裁判所昭和四一年(ワ)第五八六号土地所有権移転登記手続等請求事件につき勝訴の確定判決を得、その執行として本訴請求の原因(四)記載のとおり昭和四三年三月二六日受付をもって所有権移転登記を経由し、反面、被控訴人勤住協の(二)の所有権移転登記は抹消された。
(四) よって、被控訴人勤住協は、本件土地二の所有権に基づき控訴人の所有権移転登記の抹消登記並びに被控訴人勤住協の所有権移転登記の抹消回復登記手続を求める。
2 請求の原因に対する答弁
(一) 請求の原因(一)については、本訴抗弁に対する答弁(一)ないし(三)のとおり。
(二) 同(二)は認める。
(三) 同(三)は認める。
3 抗弁
(一) 本訴請求の原因(一)ないし(四)のとおり。
(二) 被控訴人勤住協主張にかかる控訴人と藤作との間の昭和四一年(ワ)第五八六号事件の口頭弁論終結の日は昭和四二年三月一日であるところ、被控訴人勤住協が本件土地二につき藤作から所有権移転登記を得たのはその後の昭和四二年三月三〇日であり、登記原因である売買契約締結の日も同年三月九日である。したがって、被控訴人勤住協は、民訴二〇一条一項にいう「口頭弁論終結後ノ承継人」にあたり、同被控訴人は通常の方法によっては、控訴人と藤作間の売買契約の効果を否認することはできないのである。
(三) 被控訴人勤住協の所有権移転登記は、それが控訴人のした処分禁止処分命令に劣後するものであったため、本案勝訴の確定判決に基づいて控訴人の所有権移転登記が経由された際、職権により抹消されたものであり、その抹消は適法にされたものである。
(四) 本訴再抗弁(一)ないし(四)のとおり。
4 抗弁に対する答弁
(一) 抗弁(一)については本訴請求の原因(一)ないし(四)に対する答弁のとおり。
(二) 同(二)の既判力の主張は争う。
被控訴人勤住協が本件土地二について農地法五条所定の許可を得たのは前述のとおり昭和四二年三月九日であるが、売買契約はこれに先立つ同四一年九月一日に締結され、かつ、右許可の申請は昭和四一年九月二〇日の申請に対してされたものであって、登記原因とされた昭和四二年三月九日の売買は便宜的に記載されたものにすぎず、高用朝は控訴人と藤作との訴訟の口頭弁論終結後に買受けたわけではないから、既判力の承継を云々する余地はない。
のみならず、判例は、「売買当事者間の所有権移転登記手続請求の認容判決が確定した場合に、同訴訟の被告である売主から右訴訟の口頭弁論終結前に同一不動産を二重に買受けて口頭弁論終結後に所有権移転登記を受けた者は、民訴法二〇一条一項の承継人に当たらない」ことを明らかにしており(最高裁判所昭和三八年(オ)第一三一九号、同四一年六月二日第一小法廷判決参照)、被控訴人勤住協が民訴法二〇一条にいう承継人に当たらないことは明らかである。
(三) 同(三)は争う。
(四) 同(四)については、本訴再抗弁に対する答弁(一)ないし(四)のとおり。
四 参加人樋口久米蔵の請求(昭和六二年(ネ)第三七二五号事件)
1 請求の原因
(一) 訴外吉田ヨセは、訴外樋口藤作との間で、昭和四一年一一月八日、吉田所有の本件土地三と藤作所有の本件土地一とを交換する契約を締結し、そのころ農地法所定の許可を得たうえ、本件土地一につき新潟地方法務局昭和四二年七月二七日受付第五〇八五号をもって右交換を原因とする吉田名義への所有権移転登記を経由した。
(二) 参加人樋口久米蔵は、吉田との間で、昭和四三年四月二五日、同参加人所有の土地と吉田所有の本件土地一とを交換する契約を締結し、農地法所定の許可を得て本件土地一を取得し、新潟地方法務局同年七月二日受付第四七一八号をもって右交換を原因とする同参加人名義への所有権移転登記を経由した。
(三) 控訴人は、右各契約に先だって、本件土地一につき、昭和四一年一〇月一八日付で新潟地方裁判所より藤作を債務者とする処分禁止の仮処分命令を得、同月二一日その旨の登記が経由された。そして、控訴人は、右仮処分の本案訴訟であり、藤作を被告とする新潟地方裁判所昭和四一年(ワ)第五八六号土地所有権移転登記手続等請求事件について勝訴の確定判決を得、その執行として本件土地一につき新潟地方法務局昭和四三年一二月五日受付第九八七一号をもって控訴人名義への所有権移転登記を経由し、反面、吉田及び参加人樋口の右(一)、(二)項の所有権移転登記はいずれも職権により抹消された。
(四) 本件土地一のうち別紙物件目録一記載18の土地には、参加人川澄好輝を権利者とする新潟地方法務局昭和六一年六月五日受付第二〇三四二号の所有権移転登記が存在する。
(五) 被控訴人勤住協は、参加人樋口が本件土地一につき所有権を有することを争っている。
(六) よって、参加人樋口は、本件土地一の所有権に基づき、
(1) 控訴人、被控訴人勤住協、参加人川澄に対し、参加人樋口が本件土地一につき所有権を有することの確認を、
(2) 控訴人に対し、本件土地一につき、前記(三)項の控訴人名義への所有権移転登記の抹消登記手続並びに前記(一)、(二)項の吉田及び参加人樋口の各所有権移転登記の回復登記手続を、
(3) 参加人川澄に対し、本件土地一につき、前記(四)項の所有権移転登記の抹消登記手続を、
それぞれ求める。
2 請求の原因に対する答弁
(控訴人、参加人川澄)
(一) 請求の原因事実(一)のうち、藤作が本件土地一を所有していたこと、参加人樋口主張の所有権移転登記が経由されたことは認めるが、その余は知らない。
(二) 同(二)のうち、参加人樋口主張の所有権移転登記が経由されたことは認めるが、その余は否認する。
(三) 同(三)及び(四)は認める。
(被控訴人勤住協)
請求の原因事実(一)ないし(五)は認める。
ただし、当時、藤作が本件土地一の所有権を有していたことは争う。
3 抗弁
(控訴人、参加人川澄)
(一) 本訴請求の原因(一)ないし(四)のとおり。(但し、本件土地一に関してのみ、以下、参加人樋口の請求においては、本訴関係の記載引用部分につき同じ。)
(二) 後記参加人川澄の請求についての請求の原因(二)のとおり。
(被控訴人勤住協)
本訴抗弁(一)ないし(三)のとおり。
4 抗弁に対する答弁
(控訴人、参加人川澄の抗弁について)
(一) 抗弁(一)については本訴請求の原因(一)ないし(四)に対する被控訴人両名の答弁のとおり。
(二) 抗弁(二)については後記参加人川澄の請求についての請求の原因(二)に対する答弁のとおり。
(被控訴人勤住協の抗弁について)
抗弁事実は認める。
ただし、高用朝は本件土地二、三を買い受けたものである。
五 参加人川澄好輝の請求(昭和六三年(ネ)第六四九号事件)
1 請求の原因
(一) 控訴人の本訴請求の原因(一)ないし(五)のとおり。
(二) 参加人川澄は、控訴人から、昭和六一年三月三一日、別紙物件目録一の18記載の土地(以下「本件土地一の18」という。)及び同目録二の1記載の土地(以下「本件土地二の1」という。)を買い受け、右各土地につき新潟地方法務局同年六月五日受付第二〇三四二号をもって所有権移転登記を経由した。
(三) 参加人樋口は、参加人川澄が本件土地一の18につき所有権を有することを争っている。
(四) よって、参加人川澄は、本件土地一の18及び本件土地二の1の各所有権に基づき、
(1) 控訴人、被控訴人両名に対し、参加人川澄が本件土地一の18及び本件土地二の1につき各所有権を有することの確認を、
(2) 参加人樋口に対し、参加人川澄が本件土地一の18につき所有権を有することの確認を、
(3) 被控訴人組合に対し、本件土地一の18及び本件土地二の1につき新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八五号の根抵当権設定登記の抹消登記手続を、
(4) 被控訴人勤住協に対し、本件土地一の18及び本件土地二の1につき新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号の条件付所有権移転仮登記(同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号移転の附記登記)の抹消登記手続を、それぞれ求める。
2 請求の原因に対する答弁
(控訴人)
請求の原因事実はすべて認める。
(被控訴人両名、参加人樋口)
(一) 請求の原因事実(一)については本訴請求の原因(一)ないし(五)に対する答弁のとおり。
(二) 同(二)、(三)は認める。
3 抗弁
(被控訴人両名)
本訴抗弁(一)ないし(四)のとおり。
4 抗弁に対する答弁
本訴抗弁(一)ないし(四)に対する答弁のとおり。
5 再抗弁
本訴抗弁(一)ないし(四)のとおり。
6 再抗弁に対する答弁
(被控訴人両名)
本訴再抗弁(一)ないし(四)に対する答弁のとおり。
六 参加人川澄好輝の請求に対する被控訴人勤住協の反訴請求
1 請求の原因
(一) 被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)請求の原因(一)(控訴人の本訴の抗弁(一)ないし(三)と同じ)及び(二)のとおり。
(二) ところが、本件土地一の18及び本件土地二の1については、参加人川澄のため同参加人の請求の原因(二)記載のとおり各所有権移転登記が経由されているところ、右各登記は、いずれもその順位において被控訴人勤住協の仮登記に後れるものであり、同被控訴人に対抗できないものである。
(三) よって、被控訴人勤住協は、参加人川澄に対し、同被控訴人が本件土地一の18及び本件土地二の1につき前記各仮登記に基づく本登記手続をすることの承諾を求める。
2 請求の原因に対する答弁
(一) 請求の原因事実(一)については、被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)請求の原因(一)及び(二)に対する答弁のとおり。
(二) 同(二)のうち、参加人川澄の所有権移転登記が被控訴人勤住協の仮登記に後れることは認めるが、その効果は争う。
3 抗弁
被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)の抗弁(一)(控訴人の本訴の再抗弁(一)ないし(四)と同じ)及び(二)のとおり。
4 抗弁に対する答弁
被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)における抗弁に対する答弁(一)及び(二)のとおり。
第三 証拠<省略>
理由
第一控訴人の被控訴人両名に対する本訴請求(当審における新請求を含む。以下同じ)について
当裁判所は、控訴人の本訴請求は、すべて失当としてこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加、削除するほか、原判決の理由説示第一本訴請求事件(原判決一八枚目表二行目の冒頭から同五一枚目表六行目の末尾まで)と同一であるからこれを引用する。
一原判決一八枚目表三行目の冒頭から同一八枚目裏二行目の末尾までを次のとおり改める。
「一 請求原因(一)のうち、訴外樋口イカがもと控訴人主張の(1)、(2)の各土地を所有していた事実、請求原因(二)及び(三)の事実、同(四)のうち、本件土地一、二につき控訴人主張のとおり農地法所定の許可がなされ、各所有権移転登記が経由された事実、同(五)の事実は、いずれも、控訴人、被控訴人両名、参加人川澄との間に争いがない(右各事実のうち、本件土地一に関する部分については、参加人樋口との間にも争いがない。)。
二 そこで、以下、本件土地一、二につき控訴人と藤作との間に売買契約が成立したか否かについて判断する。
1 まず、本件土地一、二につき、藤作から控訴人名義へ所有権移転登記が経由されるに至った経緯等について検討する。」
二同一八枚目裏五行目の「第二一号証、」の次に「第二五号証、」を、同八行目の「第五一号証、」の次に「第六二号証、第七五号証、第八一号証、第八二号証、第八四号証、第九四号証の二、第九五号証の一ないし四、同号証の一〇、第九六号証の一、二、第九七号証の一ないし四、第一〇七号証、第一〇八号証、」を、同一九枚目表一行目の「六五号証、」の次に「第六六号証、第八三号証、第八四号証の一、二、第八五号証、第八六号証の一、二、第八七号証、第八八号証の一、二、第八九号証、第九〇号証の一、二、第九一号証、第九二号証の一、二、第九三号証、第一二三号証の一ないし二八」を、同三行目、同九行目及び同一九枚目裏四行目の各「樋口秀次」並びに同一九枚目表一〇行目及び同一九枚目裏四行目の各「武田太郎一」の次にそれぞれ「(原審第一回)」を、同一九枚目表九行目の「第四一号証、」の次に「弁論の全趣旨により昭和三五年七月一五日ころ福田鉱業株式会社の鉱山を撮影した写真であると認められる甲第六四号証の六」をそれぞれ加え、同一一、一二行目の「樋口藤作作成部分を除き」を「全部」と改め、同一二、一三行目の「乙第二号証、」の次に「第四号証の一、二」を加え、同一三行目の「第三六号証の一、同号証の三、」を「第三六号証の一ないし三」と改め、同一九枚目裏一行目の「(ただし、」から同三、四行目の「乙第四号証の一、二、」まで及び同六行目の「(ただし、」から同八行目の「である)」までをそれぞれ削除し、同一一行目の「証言」の次に「(原審第一、二回)」を、同一二行目の「乙」の次に「第七、第八号証、第一〇号証、」を、同一三行目の「第四八号証」の次に「(なお、控訴人と参加人川澄との間においては右甲号各証の全部について、被控訴人両名と参加人樋口との間においては右乙号各証の全部について、それぞれ成立に争いがない。)」をそれぞれ加え、同一三行目の「樋口」から同二〇枚目表三、四行目の「である)、」までを削除し、同五行目の「樋口秀次」及び「武田太郎一」の次にそれぞれ「(原審第一、二回)」を加え、同七行目の「原告本人(第一ないし第四回)」を「原審(第一ないし第四回)及び当審における控訴人本人」と、同九行目の「によると、」を「を総合すると、」とそれぞれ改める。
三1 原判決二〇枚目裏八行目の「中小金」を「訴外中小企業金融公庫(以下「中小金」という。)」と、同一一行目の「藤作、須藤寛及び阿部篤三郎らを取締役」を「控訴人の従兄弟の藤作を取締役、新潟県信用組合理事の須藤寛外一名を監査役」とそれぞれ改め、同一二行目の「福田鉱業株式会社」の次に「(以下「福田鉱業」という。)」を加える。
同二一枚目表七行目の「前記取締役」の次に「等役員」を加え、同八行目の「樋口イカ」から同一二行目の「抵当権、」までを「藤作の母樋口イカ所有の新潟県西蒲原郡内野町大字五十嵐浜字川下五八二三番二七畑一反六畝一二歩及び同所五八二三番二八畑六反六畝二〇歩(以下「川下五八二三番二七、二八の土地」という。)並びに藤作所有の新潟市小針字藤山二〇六四番畑一反歩(以下「藤山二〇六四番の土地」という。)、同所二〇六五番畑一反歩(以下「藤山二〇六五番の土地」という。)、新潟市小針字村中一二三八番一畑七畝二二歩及び同所一二三八番二宅地一〇二坪(以下「村中一二三八番一、二の土地」という。)の各土地(面積合計畑一町一反二四歩、宅地一〇二坪)に抵当権、」と改める。
2 同二一枚目裏一一行目の「協和工業株式会社を設立し」を「株式会社協和工業(昭和三四年二月二四日設立)の名称で事業を行うこととして」と、同二二枚目裏三行目の「同年八月」から同四行目の「締結した。」までを「同年八月までに藤山二〇六四番の土地を同番一ないし五に分筆し、同番二につき渡辺新作、同番三につき渡辺興との間でそれぞれ停止条件付売買予約を締結したとしてその旨の各登記を経由した。」と、同一二行目及び同二三枚目表五行目の各「川村」を「河村」とそれぞれ改める。
3 同二三枚目裏一〇行目冒頭の「三」を「(三)」と、同二四枚目表一行目の「遂に」から同二行目の「にあり、」までを「毎月出炭するとの目標を実現できないまま、遂に昭和三八年ころには最終的に出炭を廃止するに至り、また、」と、同六行目の「六月二日、」を「五月三一日、」と、同七行目の「元利合計三二〇〇万円余」を「元利等合計三七四一万円余」とそれぞれ改め、同八行目の「実行」の次に「等」を加え、同九行目の「秀次、」から同一二行目の「開かれた。」までを「藤作は、秀次、従兄弟の武田太郎一らと協議を行ったうえ、同年六月五日藤作方に多勢の親族を招集していわゆる親戚会議を開き、皆に対し藤作が中小金から右催告を受けるに至った事情を説明して競売を回避するにはどうしたらよいか等を相談した。」と、同二四枚目裏二行目の「交渉を行うこととする旨」を「交渉を行い、抵当に入れた土地のうちできるだけ多くの部分が藤作の所有物件(なお、樋口イカ所有の前記川下五八二三番二七、二八の土地は、昭和三九年一月二二日イカが死亡したため、藤作が相続により承継取得した。)として残るように努力する旨」と、同六行目の「原告」から同二五枚目表一行目の「説明した。」までを「控訴人は、藤作に対し、対応策として、抵当に入れた前記川下五八二三番二七、二八の土地(これらは、昭和三八年五月一〇日、土地改良法に基づく換地処分により本件土地一、二を含む一七筆の土地に分筆され合計面積七反四畝二七歩となった。以下「真砂町の土地」という。)及び藤山二〇六四番、同二〇六五番の各土地のうち計五反歩について控訴人が自由に処分することを許諾してくれるならば、控訴人がこれを売却するかあるいは他の金融機関に担保に入れて融資を受けその金員を基にさらに融資を受けるなどの方法によって資金を捻出し、これをもって中小金に対する被担保債務全額を返済して残りの抵当土地についての抵当権も消滅させるという方法(以下この方法を「五反処分案」という。)を提案し、同方法によれば親戚らにより検討されている方法よりも処分する土地が少なくて済み、少なくとも真砂町の土地のうち三反が中小金の抵当権設定登記も抹消されて藤作の所有土地として残ると説明した。」と、同四行目の「八月」を「七月」とそれぞれ改め、同五行目の「わたって」の次に「藤作や秀次ら主な親戚と」を加え、同九行目の「五反処分案」から同一二行目の「ならず、」までを「五反処分案も含めて対応策について検討がなされ、藤作から同処分案を支持する旨の意見が述べられたが、結局、同処分案は、具体的事実の裏付けがなく、確実に奏功するか否か疑問であり、控訴人に五反歩の土地の処分を任せても万一予定どおり返済資金を作ることができず、残りの抵当土地につき抵当権設定登記が抹消されないときは、さらに金策に窮することとなる恐れがあるとして親戚一同に採用されるところとならず、」と、同一三行目の「樋口イカ所有であった真砂町の土地」を「樋口イカ所有であり昭和三九年一月二二日同女の死亡により藤作が相続した真砂町の土地の一部」とそれぞれ改める。
4 同二五枚目裏三行目冒頭の「四」を「(四)」と改め、同行目の「会議の後、」の次に「五反処分案不採用を知った」を加える。
5 同二五枚目裏一〇行目冒頭の「五」を「(五)」と、同行目の「右七月」から同一一行目の「代えて、」までを「そして、控訴人は、その後、藤作や武田らに対し、五反処分案に代えて、」と、同一三行目の「返済資金」から同二六枚目表二行目の「当っては、」までを「返済資金に充て各抵当土地の抵当権設定登記を抹消して貰う方法(以下この方法を「炭鉱買上案」という。)を提案し、これを実現するためには、」と、同三、四行目の「なかったため」を「ないので、」と、同六行目の「準備資金」から同七行目の「感ぜられた。」までを「準備資金が必要であると訴えた。」とそれぞれ改め、同八行目の「原告、」の次に「藤作の従兄弟の」を加え、同九行目の「話合いがなされた。」を「話し合いがなされ、前田と高橋が農協から五〇〇万円を借り受け、これを控訴人に右準備資金として貸与して同案の実現を目ざすこととなった。なお、」と、同一二行目の「買受けており、」から同二六枚目裏三行目の「この点につき」までを「買い受けているかのような口振りで各土地の時価に見合う額の金員を藤作に渡してある旨の話しを持ち出した。しかし、右の発言は、炭鉱買上案の検討に際しての諸々の発言中に本筋からはずれてさし挟まれた程度のものであり、少なくとも、右金員の出捐によって控訴人が抵当土地につき所有権を取得したとの趣旨を明確に述べたものではなかった。そして、控訴人と武田らは、さらにその場で右炭鉱買上案実現の見込みいかんをめぐって協議を続けるうち、」とそれぞれ改め、同五行目の「右結論に従い」の次に「直ちに電話で」を加え、同八行目の「大野喜保や不動産業者の日東土地」を「不動産業者の大野喜保や日東土地株式会社(以下「日東土地」という。)」とそれぞれ改める。
同二七枚目表二行目の「原告本人の供述中(第二回、第四回)」を「原審(第二、第四回)及び当審における控訴人本人の供述中」と改め、同九行目の「武田太郎一」及び「樋口秀次」の次にそれぞれ「(原審第一、二回)」を加える。
6 同二七枚目表一二行目冒頭の「六」を「(六)」と同二七枚目裏一行目の「別紙目録三記載の土地」を「本件土地三」と同一〇行目の「五反処分案を任せるよう主張」を「前記五反歩の土地の処分を任せるよう再び主張」とそれぞれ改め、同一二行目の「すでに」の次に「藤作と親族一同が数回にわたり協議したすえ、五反処分案を退け本件土地一、二の売却代金をもって中小金へ代位弁済することを決め、これに基づいて買手を探して」を加え、同一三行目の「時期であるので、」を「時期であったので、」と、同二八枚目表一〇行目の「単独相続」から同一二行目の末尾までを「単独相続として所有権移転登記を経由した。」とそれぞれ改める。
同二八枚目裏一行目の「原告本人尋問」を「原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問」と改め、同一一行目及び同一三行目の各「証言」の次に「(原審第一回)」をそれぞれ加え、同二九枚目表六行目の末尾に続けて「なお、藤作の左手を撮影した写真であることに争いのない甲第八九号証によれば、藤作の左手小指は、第二関節において爪先方向に対してほぼ直角に切断されていることが認められるところ、いずれも押し切りを撮影した写真であることに争いのない甲第一〇四号証の一ないし九、乙第一〇〇号証によって認められる押し切りの構造、使用方法等に照らすと、藤作が故意に自己の左手小指を切断した可能性も少なくないといえるが、たとえそうであったとしても、切断に至るまでの前記の情況等に鑑み、右自傷行為が直ちに秀次らの脅迫によって強制されたものとまで認定することは到底困難である。」を加える。
7 同二九枚目表七行目冒頭の「七」を「(七)」と、同行目の「中小金新潟支店」を「中小金本店」とそれぞれ改める。
8 同二九枚目裏二行目冒頭の「八」を「(八)」と、同行目の「藤作が」から同三行目の「同人方」までを「藤作が武田ら親戚一同に対し、五反処分案について控訴人の意見を直接聴取したうえでその採否を再度検討して欲しいと求めたため、藤作方」と、同四、五行目の「同会合においては、」を「同会合において、控訴人は、抵当土地全部が藤作の所有であることを前提として、右土地のうち五反歩の処分を任せてくれるならば中小金への返済資金を作ることができるので、残りの土地につき抵当権が消滅し、その分だけ樋口家の財産の減少を防ぐことができると主張し、藤作も右意見に同調した。しかし、」と、同一一行目の「などから結局採用されず、」を「などが理由となって結局五反処分案が採用されず、」と、同一二行目の「得手でいる旨」を「得手である旨」と、同一二、一三行目の「三二〇〇万円」を「三七四一万円」とそれぞれ改め、同三〇枚目表一行目の「方向で」の次に「控訴人に」を加え、同行目の「そのため」を「そして、藤作も右の結論に納得して秀次に対する前記告訴を取り下げることとなり、また、」と、同四行目の「され。」を「された。」とそれぞれ改める。
同六行目の「原告本人」を「原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人」と改め、同八行目の「武田太郎一」及び同八、九行目の「樋口秀次」の次にそれぞれ「(原審第一、二回)」を加え、同九行目の「検証(第二回)」を「検証(第一回)」と改める。
9 同三〇枚目裏四行目冒頭の「九」を「(九)」と、同六行目の「そこに同居する」を「その近くに居住する」と、同一〇行目の「述懐」を「慨嘆」と、同一三行目の「そして、」から同三一枚目表一行目の「なされた。」までを「この間、東京滞在中に、藤作は、中小金に対し同月二七日付内容証明郵便により、従前藤作名義でなされた代位弁済は秀次が勝手に行ったものであって、藤作の意思に基づくものではないから無効であり、今後も秀次による藤作名義の弁済は受領しないで欲しいとの趣旨の通告をなし、さらに、藤作は、秀次に対しても同日付内容証明郵便で、本件土地一、二について売却を依頼したことがない旨の通告をなしたが、これらの書面は、いずれも控訴人がその内容を記載したものに藤作が作成名義人として署名、押印したものであった。」とそれぞれ改め、同二行目の「父藤作」の次に「の支持する五反処分案が排斥され同人がないがしろにされているとの同人」を加え、同四行目の「諦め」から同八行目の「撤回する」までを「諦めすでに藤作が親族一同と協議して決めた処分方法で事を処理するよう説得した。その結果、藤作も、これを受け容れて本件土地一、二の売却代金をもって中小金に代位弁済することを承諾した。そして、藤作は、同年一〇月二日中小金に対し、右九月二七日付内容証明郵便による通告を撤回する」と、同九、一〇行目の「招いたが、」を「招き、藤作は、関係者の面前で、真実、本件土地一、二を売却しその代金で代位弁済する意思があることを表明し、その証しとして、前記九月一日の本件土地一、二の売買契約書の末尾に、同契約を承知している旨を記載して署名した。ところが、その際、」とそれぞれ改める。
10 同三二枚目表一一行目冒頭の「一〇」を「(一〇)」と、同行目の「原告」から同一二行目の「二等についての」までを「控訴人は、中小金へ担保として提供された本件土地一、二を含む前記抵当土地全部を昭和三四年七、八月ころ藤作から買い受けたと主張し、藤作を債務者として右抵当土地全部についての」とそれぞれ改め、同行目の「申請し」の次に「(同裁判所は、同月一八日申請を認める仮処分決定をなし、同月二一日その旨の登記が経由された。)」を、同三二枚目裏一行目の「訴を」の次に「藤作を被告として」をそれぞれ加え、同三行目の「外一名」を「外三名」と改め、同一〇行目の末尾に続けて「また、そのころ武田が真実を話してくれと藤作を問い詰めたところ、藤作は、武田に対し絶対に控訴人に売ってはいないと断言した。」を加える。
同三三枚目表五、六行目の「昭和四二年二月一九日、」を削除し、同七行目の「地方裁判所に、」の次に「控訴人の主張事実を全部認める旨の昭和四一年一二月一〇日付答弁書及び昭和四二年一月二七日付準備書面がそれぞれ郵便で提出され、さらに、同年二月二〇日付で」を、同九行目の末尾に続けて「また、藤作は、同年二月八日新潟地方裁判所において、前記昭和四一年(ワ)第五八三号事件につき藤作の訴訟代理人弁護士松井誠の訴訟代理権の存否に関して審尋を受けた際、控訴人に本件土地一、二をすでに売っている旨供述した。なお、藤作が、本件土地一、二をすでに控訴人に売却してあることを肯認する旨の意思を他人に表明したのは、右答弁書によるものが初めてであった。」をそれぞれ加える。
同三三枚目裏六行目の「答弁書」から同七行目の「したため、」までを「前記答弁書及び準備書面を裁判所に送付しただけで最初の口頭弁論期日に欠席したため、」と改め、同三四枚目表三行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「そして、控訴人の前記確定した勝訴判決に基づき、昭和四三年三月二六日、本件土地二につき、昭和四二年三月三〇日受付第二〇五三号の所有権移転登記(同年三月九日売買を原因とする藤作から財団法人日本労働者住宅協会への登記)が前記仮処分による失効を原因として抹消されたうえ、売買を原因とする藤作から控訴人名義への所有権移転登記が経由され、また、昭和四三年一二月五日、本件土地一につき、昭和四二年七月二七日受付第五〇八五号の所有権移転登記(昭和四一年一一月八日交換を原因とする藤作から吉田ヨセへの登記)、昭和四三年七月二日受付第四七一八号の所有権移転登記(同年四月二五日交換を原因とする吉田から参加人樋口への登記)がいずれも前記仮処分による失効を原因として抹消されたうえ、売買を原因とする藤作から控訴人名義への所有権移転登記が経由された。」
11 同三四枚目表四行目冒頭の「一一」を「(一一)」と、同一〇行目の「五日」を「六日」と、同三四枚目裏一〇行目の「九月一日」を「九月一二日」とそれぞれ改める。
12 同三五枚目表七行目冒頭の「一二」を「(一二)」と、同八行目の「子の」を「弟の」とそれぞれ改め、同三五枚目裏一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「以上の事実が認められ、前記証人及び当事者本人の各供述中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」
四1 同三六枚目表六行目の「第三八号証の一、二」を「第三八号証の一ないし三」と改め、同三六枚目裏三行目の「昭和三三年」の次に「一〇月二五日」を加え、同一二行目の「第三七号証の七」を「第三七号証の九」と改め、同三七枚目表三行目の「昭和三三年」の次に「一〇月二五日」を加える。
同三七枚目裏六行目の「部分があるけれども、」を「部分があり、また当審における控訴人本人の供述中にもこれに副う部分があるが、」と改める。
同八、九行目の「証人福田藤雄の証言のいうように」を「原審(第一回)及び当審における控訴人本人、原審証人福田藤雄の各供述のように」と、同一一行目の「措信しがたい。」を「認めがたい。」とそれぞれ改め、同三八枚目表九行目の末尾に続けて「なお、成立に争いのない乙第六六号証によれば、控訴人は、昭和三四年から昭和三七年ころにかけて、福田鉱業の採炭事業を軌道に乗せるため多額の資金を要し、資金繰りに窮した余り、昭和三七年一〇月ころから昭和三八年二月ころまでの間に合計一五通の約束手形(額面合計九一〇万円)を騙取したとして昭和三八年ころ詐欺罪で起訴され、昭和四二年四月有罪の判決を受けたことが認められ、このことからも右の藤作が出資していた事実を推測することができる。」を加える。
2 同三八枚目裏一一行目の「六月」を「五月末」と、同三九枚目表九行目の「一一月」を「二月」とそれぞれ改める。
五1 同四一枚目表九行目の「とする」の次に「原審(第一ないし第四回)及び当審におる控訴人本人尋問の結果、同旨の」を、同一一行目の「甲第四七号証」の前に「甲第五号証、」をそれぞれ加える。
同四一枚目裏六行目の「まず、」から同七行目の「藤作が」までを「まず、中小金へ提供された前記抵当土地全部(当時、畑一町一反二四歩、宅地一〇二坪、その後、換地処分により畑の一部が約九畝減少した。)について昭和三四年七、八月ころ藤作から控訴人への売買が成立した旨の控訴人本人及び証人樋口藤作の右各供述についてみるに、前記のとおり、控訴人や藤作の提案した五反処分案は、中小金から抵当権の実行等を予告された藤作及びその親族らがその対策を協議している過程で控訴人から発案された一つの解決案であり、その内容は、要するに、控訴人が藤作及び保佐人秀次の承諾のもとに右抵当土地のうち五反歩を処分して中小金への弁済資金を作りそれをもって被担保債務を完済し抵当土地の残り部分についての抵当権を消滅させて、藤作の所有土地の喪失を最少限に食い止め、できるだけ多くの土地を藤作の所有物として残すというものであって、仮に、控訴人及び藤作が供述するように、当時、藤作、控訴人間に売買が成立し抵当土地全部について、藤作に所有権がなく控訴人が所有権を有しているのであれば、藤作やその親族が多数回に亘り抵当権実行を回避するための種々の対策をめぐって協議等を重ねる必要もなく、また、控訴人が藤作やその親族に対し買受土地の約半分を返上する結果となる五反処分案を提案したりする筈もないのであるから、控訴人及び藤作の右各供述は、五反処分案と根本的に矛盾するものというべきであること、前掲乙第三〇号証の一ないし三、第四一号証によれば、藤作が」と、同一〇行目の「一〇月二三日第五回」を「一〇月二三日から昭和三九年六月一日までの間の三回に亘る」と、同一一行目の「事件当事者」から同四二枚目表一行目の「(乙第三〇号証)、」までを「藤作は、あくまで、藤作が右土地につき所有権を有していることを前提として、中小金に対する抵当権は昭和三五年七月ころにははずれると控訴人から言われていたので、昭和産業株式会社に対し、右抵当権の存在を告げないまま、同年五月ころ、河村の債務の担保として右土地を提供したが、その後中小金への抵当権がなかなかはずれなかったとの趣旨の供述をしていること、」とそれぞれ改め、同四行目の「であること、」の次に「また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(被控訴人両名と参加人樋口との間においては成立に争いがない。)乙第一一三ないし第一一六号証によれば、右昭和三六年(ワ)第一九八号事件の控訴審における樋口藤作(控訴人)の訴訟代理人作成の準備書面には、藤作が昭和三五年当時藤山二〇六番の土地を所有していたことを前提として、昭和産業株式会社との間の抵当権設定契約、売買予約の各成立及び効力を否定する理由等がるる記載されていること、原審証人樋口秀次(第二回)、同前田藤作の各証言、前掲甲第三〇号証、乙第四六号証によれば、藤作は、昭和三五年三月ころ、藤作が藤山二〇六五番の土地を所有していることを前提として、訴外不動産興業株式会社に対し右土地を代金九〇万円で売却したとし、その旨の所有権移転仮登記を経由したが、その後売買の効力等をめぐって同会社と争ったこと、前掲乙第一、第三三号証、第三四号証の二によれば、藤作は、前記準禁治産宣告申立事件において、昭和三五年一一月ころ家庭裁判所調査官に対し、控訴人に対する貸金を回収する目的でさらに藤作などの所有する前記抵当土地を控訴人経営の福田鉱業のために中小金へ担保提供した旨供述し、その審問期日において家事審判官に対しても右供述に間違いない旨陳述し、右のとおり自己所有土地を漫然と担保提供したことが理由の一つとなって昭和三六年二月準禁治産者の宣告を受けたこと、」を加え、同八行目の「深まった」から同一二行目の「至ったこと、」までを「深まり、家出して行方をくらました昭和四一年一二月以降に至るや、藤作は、右昭和四一年(ワ)第五八六号事件について、郵送による書面で請求原因事実を全面的に自白し、すでに選任していた訴訟代理人を控訴人が原稿を書き藤作が清書した書面である解任状をもって解任するとともに、右求償金請求事件においても控訴人に本件土地一、二を売ったと供述するに至ったこと、」と、同四二枚目裏九行目の「できないこと。」から同四三枚目表六行目の末尾までを「できず、他に、藤作が家出するまでの間に、本件土地一、二を控訴人に売却したことを自認するような藤作自身の言動は全く存在しないこと、また、控訴人も、前記昭和四一年(ワ)第五八六号事件を提起するまでの間において、本件土地一、二を含む抵当土地全部を藤作から買い受けた旨を藤作が立会っている場でその親族に対し明言したことは一度も無かったこと、その他、本件土地一、二について控訴人名義への所有権移転登記が経由されるに至った経緯等に関する前記1の(一)ないし(一二)、藤作が控訴人に対し資金援助していたことに関する前記2の(一)、藤作の言動の変遷に関する前記2の(三)及び控訴人の主張に副う各書証の信憑性等に関する後記3の(二)ないし(四)の各認定、判断に照らすと、本件土地一、二につき藤作、控訴人間に売買が成立したとの控訴人本人及び証人樋口藤作の各供述は、いずれもたやすく措信し難いといわざるを得ない。なお、前記のとおり、昭和四一年(ワ)第五八六号事件が提起されるまでの間に、控訴人は秀次に対し昭和四一年七月二五日付内容証明郵便で本件土地一、二を含む抵当土地を藤作から買い受けている旨の通知をしたこと、また、控訴人は、同年八月ころ高橋久一方において同人や武田らと炭鉱買上案についての話し合いをした際、同人らに対し抵当土地を藤作から買い受けたかの如き話しをしたこと、さらに、控訴人は同年九月一五日ころ中小金本店に対し高へ売却された土地は控訴人において藤作から買受けずみのものである旨の通知をなしたことがそれぞれ認められるが、これらを考慮してみても、控訴人本人及び証人樋口藤作の右各供述が措信し難いものであることに変りはない。」とそれぞれ改める。
2 同四三枚目表九行目の「ことができ、」の次に「(控訴人と参加人川澄との間においては原本の存在及び成立に争いがない。)」を、同一〇行目の「甲」の次に「第五号証、」を、同行目の「成立」の次に「(原本の存在を含む。)」をそれぞれ加え、同四三枚目裏一行目の「昭和」から同三行目の「カーボン紙には、」を「原審証人鈴木ハナ、同樋口定命也の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果(第四回)により昭和四二年ころ新宿のしんかね荘より藤作の子らが持ち帰った使用済みのカーボン紙であると認められる乙第三五号証には、」と改め、同六行目の「(別紙証拠関係説明書参照)」を削除し、同四四枚目表六行目の「通信文たる同」の次に「第五号証、」を加える。
3 同四四枚目表一三行目の「ことができ、」の次に「(いずれも、控訴人と参加人川澄との間においては成立に争いがない。)」を加える。
同四四枚目裏三行目及び同九行目の各「供述」の次にそれぞれ「(原審第一、二回)」を加え、同四六枚目裏八行目の「中小金より」を削除し、同九行目の「提出を」の次に「中小金から再三に亘って」を加え、同一〇行目の「なされず、」を「なされず(原審証人高橋浩の証言)、また」と、同一二行目の「添付されなかったということが認められること」を「添付されず、疎明資料たる控訴人作成の上申書には売買当時、契約書を作らなかった旨の記載がなされていることが認められる(前掲甲第九四号証の二、乙第二九号証)こと」とそれぞれ改める。
4 同四七枚目表六行目及び同四八枚目表四行目の各「川村」をそれぞれ「河村」と改め、同四八枚目裏五行目の「さらに、」から同四九枚目表四行目の末尾までを削除し、同四九枚目裏九行目の「原告本人尋問」から同一〇行目の「認められる」までを「前掲」と改め、同一一行目の「第三四号証の一、二」の次に「、乙第三一号証」を、同五〇枚目表一三行目の末尾に続けて「そして、結果的には、福田鉱業は毎月の出炭を確保できず、中小金からの借入金についても一万円を返済したのみで、ついに、昭和三八年には最終的に採炭を廃止するに至ったことは前記のとおりである。」をそれぞれ加える。
六同五〇枚目裏一三行目の「止まる」から同五一枚目表三行目の末尾までを「止まるものではないかとの疑問が強く残り、右の控訴人から藤作への金員支払の事実をもってしても、控訴人主張の本件土地一、二外を目的とする返り証付売買代金としての支払であるとは到底認めることができず、他に右売買の事実を認めるに足りる証拠はない。」と改める。
七同五一枚目表四行目の「すると、」から同六行目の末尾までを次のとおり改める。
「以上のとおりであり、本件全証拠を検討してみても、本件土地一、二について藤作と控訴人との間に売買が成立したことを認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないから、その余の点について判断するまでもなく控訴人の被控訴人両名に対する本訴請求はすべて理由がなく、棄却を免れない。」
第二被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴請求(主位的)について
一反訴(主位的)請求原因(一)(本訴抗弁(一)ないし(三))のうち、藤作がもと本件土地一、二を所有していたこと、本件土地一、二につき新潟地方法務局内野出張所昭和四一年一〇月六日受付第六一八六号の条件付所有権移転仮登記及び同出張所昭和五六年一〇月二七日受付第四〇四一二号の右条件付所有権の移転の附記登記が各経由されていること、日本勤労者住宅協会法(昭和四一年七月二五日法律第一三三号)により被控訴人勤住協が設立され、昭和四二年三月二九日その成立と同時に労住協の有する一切の権利、義務がすべて被控訴人勤住協に承継されたこと、労住協が本件土地二につき藤作から譲渡を受けたとして昭和四二年三月九日新潟県知事による農地法五条所定の許可を得たこと、おそくとも昭和五三年八月五日までには本件土地一、二が非農地となったこと、反訴(主位的)請求原因(二)の事実(被控訴人勤住協が藤作の相続人に対し前記仮登記に基づく本登記手続を求める訴えを提起し、その認容判決が確定したこと)、同(三)のうち、本件土地一、二につき被控訴人勤住協主張のとおり藤作から控訴人名義への各所有権移転登記が経由されており、右各登記がいずれも被控訴人勤住協の前記仮登記に後れるものであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二そこで、本件土地一、二についての藤作から高への売買契約及び高から労住協への買主の地位の譲渡契約の各成否等について検討するに、これについての当裁判所の認定、判断は、次のとおり訂正、付加、削除するほかは、原判決五一枚目表一二行目の冒頭から同五四枚目裏二行目の末尾までの理由説示と同一であるからこれを引用する。
1 原判決五一枚目表一二行目の「及び」の次に「右争いのない事実並びに」を加え、同一三行目から同五一枚目裏一行目にかけての「甲第一八号証の一、二」を削除し、同行目の「乙」の次に「第三号証、第五三号証、第五七号証、」を、同行目の「各一、二」の次に「前掲乙第一二三号証の一ないし二八、」をそれぞれ加え、同三行目の「乙第五一号証、」を「乙第五二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五四ないし第五六号証(被控訴人両名と参加人樋口との間においては右乙号各証の全部について成立に争いがない。)、」と、同四行目の「によると」を「、当審証人高用朝の証言を総合すると、」と、同五行目の「できる。」を「でき、他にこれを左右するに足りる証拠はない。」とそれぞれ改める。
同五二枚目表二行目の「別表」を「原判決添付別紙図面」と、同三、四行目の「別紙目録三記載の土地」を「本件土地三」と、同七行目の「本件土地一」から同一〇行目の「こととし、」までを「第一次的には本件土地一、二を売買の目的とするが、売主藤作において本件土地一と同面積の本件土地三とを交換して本件土地三につき買主高(またはその指図する者)への所有権移転登記を経由したときは第二次的に本件土地二と本件土地三を売買の目的とすることとし、農地法所定の許可の申請は買主高の都合により同人又はその指図する者に対し譲渡したものとすることに藤作も協力するとの農地法五条所定の許可を条件とし、」と、同一一行目の「一万二五〇〇円」を「一万三〇〇〇円」とそれぞれ改める。
2 同五二枚目裏一一行目の「近隣に」の次に「おいて」を加え、同行目の「住宅造成」を「宅地造成」と改め、同一二行目の「あって、」の次に「本件土地一、二についても同様の事業を推進する計画を立て、高との間において、」を加え、同行目の「別紙目録三記載の土地」を「本件土地三」と、同五三枚目表一行目の「買受ける」から同二行目の「について」までを「買い受けるが、第一次的には本件土地一、二を買い受けることとし、同土地について」とそれぞれ改める。
3 同五三枚目裏二、三行目の「とともに、」の次に「同月六日、」を加え、同四行目の「抹消を受けた。」を「抹消登記と高名義への条件付所有権移転仮登記を経由した。」と改める。
4 同五四枚目表一行目の末尾に続けて「なお、前記福対協と高との間の売買契約締結の際、福対協が本人たる労住協のために契約するものであることは表示されなかったが、右契約に基づき昭和四一年九月二〇日付でなされた農地法五条所定の許可申請書に譲受人として労住協の氏名が記載されていたことや本件土地一、二の近隣において福対協が労住協のために住宅団地の宅地造成事業を行い、労住協の名で労働者に対し宅地分譲がなされていたことなどから、当時、売主たる高は福対協が労住協のために契約するものであることを知り得べき状況にあった。」を加える。
5 同五四枚目表二、三行目の「別紙目録三の土地」を「本件土地三」と改め、同四行目の「ため、」の次に「保佐人秀次の同意を得た藤作の承諾のもとに、」を、同八行目の末尾に続けて「しかし、前記のとおり、控訴人の藤作に対する所有権移転登記手続等請求事件(新潟地方裁判所昭和四一年(ワ)第五八六号)の確定判決及びそれに先立つ仮処分決定に基づき、本件土地二につき昭和四三年三月二六日、右労住協名義への所有権移転登記が抹消されたうえ、藤作から控訴人名義への所有権移転登記が経由され、また本件土地一についても同年一二月五日、藤作から控訴人名義へ所有権移転登記が経由された。」を加える。
同一二行目及び同五四枚目裏一行目の各「被告勤労協」を「被控訴人勤住協」とそれぞれ改め、同二行目の末尾に続けて「その後、被控訴人勤住協は、昭和四三年六月ころ新潟地方裁判所に対し、控訴人を債務者として本件土地二につき処分禁止の仮処分を申請し、同月八日同裁判所の認容決定を得てその旨の登記を経由したうえ、昭和五六年一〇月二七日本件土地一、二につき、藤作と高との売買契約上の買主の地位の譲渡を原因として前記条件付所有権の移転の附記登記を経由した。そして、遅くとも昭和五三年八月五日までには、本件土地一、二は非農地となった。」を加える。
6 同五四枚目裏二行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「2 右認定の事実並びに本訴請求事件において示した前記の認定事実及び判断によると、高は、昭和四一年九月一日、保佐人樋口秀次の同意を得た藤作との間で、農地法五条所定の許可を条件として、藤作所有の本件土地一、二を代金二四八六万九〇〇〇円で買い受ける旨の売買契約を締結し、その後右代金を完済して右各土地につき高名義の条件付所有権移転仮登記を経由したこと、そして、労住協は、同月一五日、福対協を代理人として高から本件土地一、二についての右買主の地位を譲り受け、その後、労住協の権利義務一切は、立法により被控訴人勤住協に承継され、同被控訴人は、本件土地一、二の高名義の右仮登記につき移転の附記登記を経由したことをそれぞれ認めることができ、また、藤作と高との売買契約においては、農地法所定の許可の申請は高の都合により同人またはその指図する者に対して譲渡したものとして行うことに藤作も協力する旨の約定がなされていることや、現に、右売買契約ののち藤作から労住協へ直接譲渡されたものとして農地法五条の許可申請が右両名の連名でなされていることなど前記認定の事実関係によると、藤作は保佐人秀次の同意を得て高から労住協への買主の地位の譲渡を承諾していたものと推認することができる。」
三以上の当事者間に争いのない事実及び前項認定の事実によれば、被控訴人勤住協の反訴(主位的)請求原因事実はすべてその存在を認めることができる。
そこで、以下控訴人らの抗弁について判断する。
1 まず、控訴人及び参加人川澄は、高の国籍は、売買当時、いわゆる北朝鮮に属していたから、法令上、高は本件土地一、二を取得しうる地位を有していなかった旨主張する(抗弁(一)、本訴再抗弁(一))。
しかし、当裁判所も、右主張は理由がないものと判断するものであって、その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決五七枚目表九行目の「成立」から同五八枚目表一三行目の末尾までの理由説示と同一であるからこれを引用する。
同五七枚目表九行目の「第一四号証」を「第一五号証」と、同五七枚目裏一二、一三行目の「朝鮮の表示も」を「国籍が朝鮮と表示されている場合についても」とそれぞれ改める。
2 つぎに、控訴人及び参加人川澄は、藤作と高との間の売買契約は、本件土地二と三を売買の目的とするものであって、当時、本件土地三が訴外吉田ヨセの所有であったところから藤作においてこれを自己の所有としその所有権移転登記を経由したうえで高の指図に応ずるまでの間、その手続のされることを担保する目的で本件土地一、二について高名義の条件付所有権移転仮登記が経由されたのであるから、右売買後の昭和四二年四月二一日藤作が吉田から本件土地三を取得してその所有権移転登記を経由した時点で右各仮登記は担保目的を達成したものとしていずれも抹消されるべきである旨主張し(抗弁(一)、本訴再抗弁(二))、参加人樋口も藤作と高との売買は本件土地二と三を目的とするものである旨主張する。
確かに、<証拠>によれば、高が藤作との売買において終局的には本件土地二と三の買い受けを希望していたことは明らかである。しかしながら、本訴並びに反訴請求事件において説示した前記の各認定事実及び判断を総合すると、前記第二二1の(一)に認定したように、高と藤作との右売買契約の内容は、契約締結の時点においては、あくまで本件土地一と二を売買の目的とするものであって、将来、藤作において、本件土地一と吉田所有の本件土地三とを交換しその所有権を取得して藤作名義への所有権移転登記を経由したうえで、本件土地三につき高またはその指図する者に対する農地法所定の許可申請手続と同許可後の所有権移転登記手続を履行したときには、その時点において本件土地二と三が売買の目的となるというものであったと認定するのが相当であり、右契約内容について、控訴人ら主張のように、本件土地一、二についての条件付所有権移転仮登記が担保目的であって、単に、本件土地三につき藤作が所有権を取得して同人名義への所有権移転登記が経由されただけで高またはその指図する者への農地法所定の許可申請手続及び所有権移転登記手続が行われていない時点において、当然に右担保目的が消滅して高に右仮登記の抹消登記手続義務が発生するとか、または、右の所有権移転登記手続が履行されていない時点において、当然に、売買の目的物が本件土地一から本件土地三に変更され、高が本件土地一の所有権を喪失して本件土地三の所有権を取得するとかと認定することはできないといわざるを得ない。結局、本件全証拠を検討してみても、控訴人及び参加人らの右主張を認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人及び参加人らの右主張は理由がない。
3 また、控訴人及び参加人川澄は、高と労住協との間の買主の地位の譲渡契約は、高が藤作から本件土地一、二を買い受けた後、高の国籍が朝鮮であってその所有権取得につき主務大臣の認可を受けられないことが判明したため、形式的に労住協の名義を借り受けて所有権を取得する目的で同人と通謀して譲渡契約を仮装したものであるから、虚偽表示として無効であると主張(抗弁(一)、本訴再抗弁(三))する。
しかしながら、本件全証拠を検討してみても、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
もっとも、前記二1の(一)ないし(五)認定の事実によれば、高は、昭和四一年九月一日本件土地一、二を代金二四八六万九〇〇〇円(坪当り一万三〇〇〇円)で買い受けながら、その一〇日後には労住協の代理人たる福対協との間で転売交渉を始め、同月一五日には同人に対し同土地の買主たる地位を代金一九一二万八九〇〇円(坪当り一万円)で譲渡しており、譲渡の時期が当初の買い受けと近接していることや譲渡代金額が買受代金より相当減少していることから見て右譲渡が経済則に反した不自然な取引であることが認められるが、前記のとおり、右譲渡に至るやむを得ない事情があり、同月二〇日には右譲渡契約に基づき本件土地一、二につき当初の売主である藤作から労住協へ譲渡がなされたとして農地法五条の許可申請がなされ、同許可の後同人名義への所有権移転登記が経由されていること、現に、労住協は本件土地一、二の近隣において住宅団地を造成し労働者に対して宅地を分譲する事業を行っており、本件土地一、二についても同様の計画のもとにこれを取得したものであることなど前記認定の事実関係に照らすと、右譲渡が不自然な取引に見えることから直ちに高と労住協との通謀による虚偽の取引であるとまでは断定することができないというべきである。
したがって、控訴人及び参加人川澄の右主張もまた理由がなく採用できない。
4 さらに控訴人及び参加人川澄は、藤作が高との間の売買契約に応じたのは、当時、秀次や武田など藤作の親族が藤作を脅して畏怖させたためであると主張(抗弁(一)、本訴再抗弁(四))する。
なるほど<証拠>などには、秀次や武田らが藤作を脅迫し、藤作の意思に反して右契約を締結したとの趣旨の記載があり、また<証拠>の中には右主張に副う部分があるが、前示のとおり、藤作は、多数回にわたる親族との話合いを経たすえ右売買に先立つ親戚会議において、本件土地一、二を売却して中小金に返済することを了承し、その売買交渉を武田及び秀次に委任したこと、昭和四一年一〇月三日から同月五日にかけて、藤作は、買主高や抵当権者中小金など関係者の面前において右売買が藤作自身の意思に基づくものであることを確認する旨の意思表示を行い、また、第三者の立会いによる心理的圧迫などの影響を排除して藤作の真意を表明させるため特に設けられ、控訴人と保佐人秀次だけが立会いを許された場においても、藤作は、中小金新潟支店長に対し右と同旨の意思表示をしたことなど本訴において説示した前記の認定、判断に照らすと、控訴人らの主張に副う右各証拠はたやすく採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
なお、藤作が左手小指を切断したことについての認定、判断も前示のとおりであって、右事実によっても控訴人らの右強迫の主張を認めるには足りない。
5 そして、控訴人及び参加人川澄は、抗弁(二)において、被控訴人勤住協ないし高は、藤作がすでに本件土地三につき自己名義への所有権移転登記を経由しており、藤作との契約により同人及びその相続人らからいつでも本件土地三を取得することが可能な状態となっているにもかかわらず、これを取得せず、あえて、本件土地一につき本登記承諾請求をなしているものであるから、右承諾請求は、被控訴人勤住協ないし高が藤作の相続人らと通謀して、控訴人の本件土地一についての所有権取得を妨害する意図に出たものというべきであり、背信的悪意者の請求として許されない旨主張する。
しかしながら、被控訴人勤住協が藤作の相続人らと通謀して、控訴人による本件土地一の取得を妨害することを意図し、故意に本件土地三についての同被控訴人への所有権移転登記手続を懈怠していることまでを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、<証拠>によれば、本件土地三について、昭和四二年四月二一日吉田ヨセから藤作へ交換を原因として所有権移転登記が、さらに昭和五五年一月三〇日藤作から樋口定命也へ相続を原因として所有権移転登記がそれぞれ経由されており、登記簿上の記載から見るかぎり、藤作の相続人定命也は、いつでも被控訴人勤住協名義への農地法所定の許可申請手続と同許可があったときの所有権移転登記手続を履行しうる状態にありながらこれを遅滞しているということができるが、前記認定の事実によれば、定命也ら藤作の相続人らは、本件土地三について被控訴人名義への右各手続を履行しても、本件土地一についてすでに控訴人名義への所有権移転登記が経由されているため同土地の所有権を完全に回復し交換相手たる吉田にこれを移転することができるか否かについて危惧を抱き、被控訴人勤住協に対する右履行を躊躇しているものであることが窺われるところ、被控訴人勤住協としては、前記のとおり、本件土地三について同被控訴人名義への農地法所定の許可申請手続及び同許可後の所有権移転登記手続が履行されるまでは、それがいかなる理由で不履行になっているとしても、本件土地一につき所有権を有しているのであるから、同土地の仮登記に基づき登記上利害の関係を有する第三者に対し、その本登記の承諾を求めることができるのであって、その請求に何ら背信性はないというべきである。
したがって、右抗弁も理由がない。
6 そうすると、控訴人及び参加人らの抗弁は、すべて理由がなく、採用できない。
四以上の事実によれば、被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴請求(主位的)は、理由があるからこれを認容すべきである。
第三参加人樋口久米蔵の請求について
一参加人樋口は、その請求原因において、訴外吉田ヨセは藤作から昭和四一年一一月八日交換により本件土地一を取得して昭和四二年七月二七日その旨の所有権移転登記を経由し、さらに参加人樋口は吉田から昭和四三年四月二五日交換により同土地を取得して同年七月二日その旨の所有権移転登記を経由したので本件土地一につき所有権を有する旨主張する。
たしかに、<証拠>によれば、藤作と吉田ヨセは、昭和四一年九月二〇日すぎころ本件土地一と本件土地三との交換契約を締結し、同年一一月上旬ころこれにつき農地法所定の許可を得たうえ、本件土地一につき昭和四二年七月二七日藤作から吉田へ、本件土地三につき同年四月二一日吉田から藤作へ、それぞれ所有権移転登記を経由したこと、そして吉田と参加人樋口は、昭和四三年四月ころ本件土地一と同参加人所有の別の土地との交換契約を締結し、本件土地一につき農地法所定の許可を得たうえ同年七月二日吉田から参加人樋口への所有権移転登記を経由したこと(ただし、本件土地一についての右各所有権移転登記は、いずれも昭和四三年一二月抹消された)がそれぞれ認められる(本件土地一につき右各所有権移転登記が経由されたことは当事者間に争いがない。)。
二しかしながら、本訴及び反訴請求事件において説示した前記の各認定、判断並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件土地一についての藤作と吉田との交換契約及び吉田と参加人樋口との交換契約は、いずれも、将来、藤作において、本件土地三の所有権と登記名義を取得したうえ、同土地につき高または同人からその地位を承継取得した者に対して、農地法所定の所有権移転許可申請手続と同許可後の所有権移転登記手続を履行し、それによって本件土地一の所有権を高(または同人からこれを承継取得している者)から回復取得したときは、その時点において、本件土地一の所有権を藤作から吉田へ、さらに同人から参加人樋口へと移転させるという趣旨のものであったと認めるのが相当であり、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
右事実及び前記第二の一、二認定の事実によれば、本件土地一は、すでに藤作から高へ、さらに同人から被控訴人勤住協へそれぞれ譲渡され、現在、その所有権は、被控訴人勤住協に帰属しているものというべきであり、参加人樋口は、藤作(またはその相続人)が、被控訴人勤住協に対し本件土地三について農地法所定の所有権移転許可申請手続と同許可後の所有権移転登記手続を履行することによって、同被控訴人から本件土地一の所有権を回復取得しないかぎり、藤作及び吉田を経由して本件土地一の所有権を取得することができないものといわざるをえない。そして、<証拠>及び前記第二の三、5認定の事実によれば、現在、本件土地三の登記簿上の所有者名義は、藤作の相続人定命也のままであり、同人が被控訴人勤住協に対し未だ右各義務を履行していないことは明らかであるから、参加人樋口は、現時点においては本件土地一の所有権を取得していないといわなければならない。
結局、参加人樋口が本件土地一の所有権を取得したことを認めるに足りる証拠はない。
よって、本件土地一につき所有権を有することを前提とする参加人樋口の請求は、その余の点につき判断するまでもなくすべて理由がないから、これを棄却すべきである。
第四参加人川澄好輝の請求について
参加人川澄は、控訴人が藤作から昭和三四年七、八月ころ本件土地一、二を買い受けてその所有権を取得し、さらに参加人川澄が控訴人から昭和六一年三月三一日右各土地のうち本件土地一の18と本件土地二の1を買い受けてその所有権を取得した旨主張する。
しかしながら、前記本訴請求事件において説示したとおり、本件全証拠を検討してみても、控訴人が藤作から本件土地一、二を買い受けたことを認めることはできないから、右売買の成立により控訴人がその所有権を取得したことを前提とする参加人川澄の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、すべて理由がない。
したがって、参加人川澄の請求は、いずれも失当としてこれを棄却すべきである。
第五参加人川澄の請求に対する被控訴人勤住協の反訴請求について
一請求原因(一)(被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)請求原因(一)及び(二)と同じ)の事実全部が認められることは、前記反訴請求事件について説示したとおりである。
二請求原因(二)のうち、本件土地一の18及び本件土地二の1につき被控訴人勤住協主張のとおりの各所有権移転登記が経由されていることは、当事者間に争いがない。
三参加人川澄の抗弁(被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴(主位的)の抗弁(一)及び(二)と同じ)がいずれも失当であり採用できないことは、前記反訴請求事件について説示したとおりである。
四右事実によれば、被控訴人勤住協の参加人川澄に対する反訴請求は、理由があるからこれを認容すべきである。
第六結論
以上のとおりであるから、控訴人の本件控訴及び当審における新請求並びに参加人樋口、同川澄の各請求は、いずれもこれを棄却し、被控訴人勤住協の控訴人に対する反訴請求(主位的)及び参加人川澄に対する反訴請求は、これを認容し、これと異なる原判決主文第二、第三項を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田尾桃二 裁判官仙田富士夫 裁判官市川賴明)
別紙<省略>